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すごいコンサートでした!もう絶好調のグリゴーロ。

チケットを取って下さった林安喜子先生に感謝感謝です。お席はいくらか右寄りながら前から2列めという絶好のポジション。

それにしても。。。

世界のトップをいく歌い手とは、こんなにも強く空気を震わせることができるのかと衝撃を受けました。いまだかつてない体験です。

声量もさることながら、その空気の波というのか強いヴィブラートは、私の顔や身体に台風の風のように向かってきて、風が吹くわけでもないのに、それを受け止めるのには体幹に力を入れておかなければ、後ろへ持っていかれそうになるのです。

極めて強い波動というのでしょうか。

グリゴーロはピアノの前に立って歌うというタイプの歌手ではなく、オペラの演技をそのまましているように、それどころか、オペラよりももっと激しくステージ上をところ狭しと動きまわって歌うのです。

サントリーホールのステージを囲む客席それぞれの方向へ、フレーズごとにあちらを向いて、次はこちらを向いて。。。と最初は目まぐるしく感じたほどに動いて歌います。

となりで安喜子先生は度肝を抜かれたようで、なんか落ち着いて聴いていられないわねぇ、とぼそり。

それもそうかもしれませんが、私はと言えば、とにかく目と鼻の先、グリゴーロの口の中や舌が覗けるほどすぐそばで、私たちの方を向いて歌っているのですから完全に陶酔状態。

目と耳が釘づいてしまって、この声、この響きはいったいなんなのだろうと。

そのディナミークの幅の広さ、あまたの表情の変化、全身を使った演技、声質の変化、ピアノ、ピアニッシモの時の出だしの美しさ、フォルテの力強さ、艶、アリア1曲ずつに込める魂。

そしてグリゴーロが目の前から次の位置へと踵を返すと、ふわ〜っとトワレの残り香が私達を包むのです。

あぁ、グリゴーロのスキンから漂う香り。

もしかすると、品格のある落ち着いた歌を聞かせる歌手たちのステージを基準にしたら、品性に欠ける域に足を半分踏み出しているかもしれません。

しかしとにかく私が魅せられたのは、キメの細かい隅々まで行き届いた歌い方、そのフレージングのえもいわれぬリリシズムです。

息を信じられないほど巧みに使うので、もうこれ以上は伸びないだろうと思うようなフレーズの最後でまたクレッシェンドをかける。そして最後の最後はどれだけ美しく閉じるのかと思わせるほどに、絹糸よりも細くなって空気の震えだけが残って消えていきます。

声による描写力は天性のものも間違いなくあるでしょうけれども、それだけではない、考え抜いて組み立てられた緻密なフレージングが感じられます。

それだけではないのです。

リズム感のよさ、キレのよさ。身体の動きと一体化した付点音符の弾力性!

それからファルセットにまではならないぎりぎりのところを突くピアニッシモ。これを使う時グリゴーロは口を大きく開け直して、そうするとどこまででも長く引き伸ばすことができるようにみえます。

それを使って聴かせてくれたのが、マスネのマノンから「目を閉じると〜夢の歌」。私の大好きな曲。今聴くことのできるほぼすべての歌手のを聴きましたが、グリゴーロのは他の誰よりもはかなく、他の誰の追従も許さぬ美しさでした。

同じくマスネの『ウェルテル』の「春風よ、なぜ私を目覚めさせる」。ここでは悲痛さと心のダークなサイドを見事に描きだしていました。

その他、私が‘モバイル女’と名付けている、リゴレットの『ラ・ドンナ・モビレ』、そしてプッチーニのトスカ『星は光りぬ』。有名アリアをたっぷりと。

アンコールはビゼー『カルメン』からドン・ホセの『花の歌』!

これはグリゴーロがサントリーホールの聴衆に対して心からの御礼を長々と述べてから、カルメンかカンツォーネか、どちらかを聴衆の拍手の多さで決めよう!

ということで、やっぱりそうなると拍手をしたいのはカルメンではありませんか。

となりの安喜子先生はちゃっかり両方に拍手していらっしゃる(笑)

安喜子先生はメゾソプラノの歌い手で、NYに留学していらした頃聴いた往年のスターテノールの声を覚えていらして、それは例えばもう伝説の人となっているようなマリオ・デル・モナコとか、フランコ・コレッリなどをライブで聴いていらっしゃるのです。

それらは先生の心の中で結晶化されて美化されて永遠の美となっているのですが。。。

それでも、

今日のグリゴーロは本当に聴けてよかったと!

そうですよね!20代で聴く‘憧れのスター’への感動と、人生の経験を積んでからの60代、70代になっての感動とはまた全然違うもの。(。。のはず)

今をともに生きる時代のスターを、澄んだ心で聴いて感動できるって、本当に素晴らしいコンサートだったなぁ。。。。と、心から思うのです。

ピアニストと、前を行くのはグリゴーロの足!

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