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楠原祥子&夏目恭宏FACIOLIデュオリサイタル
11月1日(水)19時開演 豊洲文化センターホールで開催しました。ご来場下さったみなさま、誠にありがとうございます!
はぁ、それにしても軽い気分のこの数日。久々のことです。
毎日楽譜を何冊も入れて持ち歩いたバッグから解放され、黒いトッズのトートの中身は、化粧ポーチ、手袋、ハンカチだけになって、事実軽い!
ウェーバー=ゴドフスキーの、世にも恐ろしい、何万個音があるかしれない『舞踏への勧誘』や、アルゲリッチとネルソン・フレイレのすごい録画に、どうしたって心理的圧迫を受けるルトスワフスキの『パガニーニ変奏曲』、生まれて初めて弾くシャミナード、といった曲から解放されて、気分も一気に軽い!
プログラムにてんてこ舞いの日々。楽譜とにらめっこをしてピアノの前に座っていた日々はまず一段落です。
コンサートの前日は、夏目くんは我が家に10時に来て、それからピアノ室からほとんど出ることなく夜の12時まで合わせていました。録音したり、解釈やバランスを考え直したりで、瞬く間に数時間が過ぎていくのです。主人はさすがに驚いて、「13時間も弾いてるよ。ずいぶん熱心だねぇ。。。」と、目を白黒させていました。
そんなでプロモーションにはほとんど手がつかずで、ですから、いらして下さった方には心から感謝です。ありがとうございました。
夏目くんと演奏するということは、私のポーランドの師バルバラ・ヘッセ・ブコフスカとの思い出を音にすることでした。
ステージでもお話したのですが、夏目くんはブコフスカ邸に6年も住んで、先生のピアニズムやエレガンス、ライフスタイルをもっとも多く見聞きした人です。
先生はすでにワルシャワのショパン音大教授職を引退されていたので、夏目くんが師事したのはステルチンスキ先生でしたが、私達はある意味で同門弟子といって許されるはずです。
私がワルシャワに行くと、先生宅のキッチンに座って、夏目くんも加わって朝から日も暮れて夜もふけるまで、尽きることなくお話を聞き出しておしゃべりしていました。
ワルシャワ・フィルとのコンサートツァーの話し、ステファンスカやスメンジャンカやベラ・ダヴィドヴィチなどピアニスト仲間の話し、ルビンシュタインの話、戦後の抑圧された時代の話し、マズルカ録音の話し、ドレスの話し、。。。
先生は「旅はエレガントに」という独特の信念の持ち主でした。旅行の時は日常よりきれいに装って、手には必ずバニティーケース。飛行機の中ではバニティケースを足台にしていたらしいですが。。。
それこそ大ピアニストでいらした頃に身についたエレガンスでしょうか。
食べ物は自分では何も作らないのに、食べ合わせにうるさくて、魚料理の付け合せは茹でた皮つきじゃがいもでないとダメと決まっていたし、或る時、にしんの前菜の後にメインは抜いてデザートにいきたいと言ったら、「そんな食べ方は吐き気がする」と髪を逆立てて怒り出したこともありました。
演奏についても、ショパンの1番のコンチェルトの自分の録音を聴いて、人より2分は速いと自己満足の体で、唇に勝利の笑みを浮かべていたことも思い出されます。
そんな時間を共有してきた夏目くんだから、一緒に演奏できてよかったな、と心から思うのです。
FACIOLI2台での演奏は稀なことで、1台はファツィオリジャパンから特別にお借りしました。
反省すべき点もたくさんあります。
2台ピアノだからこそ、合わせのために、むしろソロよりも時間を要することがよくわかったことです。
例えばTamara Granatのように、デュオのエキスパートで、この曲はこうあるべきというヴィジョンが明確で、仕上げへの段取りも経験上わかっていれば、修正を加えながらそれに従って進んでいけばいい。
一方、二人で創意工夫を試みながら、いわば手作りで仕上げていく場合は、理想像の可能性が無限に広がり、定めが揺らいでしまうことが往々にしてあります。
途中のプロセスは決して無駄ではないにせよ、方向性を見極めるのに楽譜を前に迷い、録音を聴き、膨大な時間を要することになってきます。
そのあたりの段取りを、次回は整理して仕上げまで持っていきたいと思います。
そうそう作品について。。。
ルトスワフスキのパガニーニ変奏曲は、練習の途中から、この曲の和声は美しいと気がついたのは一大発見でした。
この曲は夏目くんがショパン音大の試験で弾いていたから、基盤は安定していて、そのおかげで、大樹に寄り沿うようにテンポも上げることができたし、リズムに支配されるより、この曲は和声変動の美しさを表現できるのだ、と気がついたのでした。
ルトスワフスキ独自の響きで現代曲の姿をしているけれども、きちんとした和声が機能している。。。そういう原理を一瞬のうちに読み取れば、曲をかなりスピーディーに形にできるなぁと!

調律の越智晃さんも一緒に


 

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