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濃密なチェロを聴かせてくれる。チャイコフスキーのチェロとオーケストラのための作品、『ロココの主題による変奏曲』。
学生の頃、この曲を最初に聴いた時にすでに胸に響くものがあって、それからずっと変わることなく好きであり続けている。なぜだろう、こんなにいつまでも好きでいられるのは。途中で飽きてしまう曲もたくさんあるのに。。。。
人の心情がすべて音になっているからかもしれない。嬉しくても沈みこんでいても、いつ聴いても折々の私の気持ちがこの曲の中に見つかる。
序奏からもう私の心をつかんで揺さぶりをかけてくる。
チェロのテーマが始まる時、生まれたての無垢な響きにまず感動して耳が吸い付く。わずか1オクターブ強におさまる旋律ラインは、ぬくもりがあって、それはそれは温かい。
“ロココ”というのだから、モーツァルトあたりの時代をチャイコフスキーが懐古して作曲したのだろうが、リズムやフレージングのシンプルさはロココのスタイルを踏襲していても、和声感や旋律ラインのふくよかさは、やはり19世紀の謳い上げることができるラインだ。
壮大に愛を謳い上げる第3変奏。この濃密な旋律はどう生み出されたのか。愛の独白なのだろう。『エフゲニ・オネーギン』の“手紙の場”を思い起こさせる。眠れぬ夜にありったけの愛を、或る場面は大胆に、そうかと思えば急に臆病になって切々と訴えているようだ。
第5変奏で、今度はフルートがテーマを奏で、チェロが寄り添うようにスライドしながらペアで上がっていき、いっきになだれ落ちる。絶妙な美しさがはじける。
第6変奏で短調になるとこの曲の佳境にはいる。生きている間の責苦を背負い、癒しを求め、打ちひしがれ、絶望に突き落とされ、もがき、苦しむ自分の姿がそこにある。むせび泣きながら、すがりつく先を求めて、かろうじて息をしている。
一筋の光が差し込み、第7変奏が始まる。小鳥に導かれて野原を駆けめぐるように、チェロがフルートとおしゃべりをする。こずえを渡る小鳥を追いかけ、戯れ、さえずり、ともに歌う。
この部分をいつも私は待っている。心が解放されるこの時を、曲が始まった時から待っていることに気がつく。
 
今回のチャイコフスキー国際コンクールのチェロ部門の覇者、Andrei Ionuț Ionițăアンドレイ・イオヌート・イオニータ(ルーマニア)のチェロは、完全に彼のボディの一部と化していて、楽器が彼と一緒に呼吸し、熱を発散しているかのようだ。
人に幸せを与えてくれる演奏ができる人は少ないけれど、溢れるほどの音楽の幸せを運んでくれている。
http://tch15.medici.tv/en/performance/round-round-3-cello-2015-06-28-1945000300-grand-ha
もう一人、第3位のアレクサンデル・ブズロフ(ロシア)Alexander Buzlov。イオニータとは対照的に、苦悩や影の色を深く彫り込んでいき、濃密なチェロを聴かせてくれる。
http://tch15.medici.tv/en/performance/round-round-3-cello-2015-06-29-1800000300-grand-ha
そしてこの美しいホール!サンクトペテルブルグのフィルハーモニー。安っぽい音楽など用はない凛然たるたたずまいだ。
そしてさらに・・・・!
チャイコフスキーコンクールピアノ部門で、FAZIOLIの調律から帰ったばかりの越智晃さんにお土産話を聞きました。
モスクワ音楽院大ホールでライブを聴くのと、ネットでのトランスミッションには大きな開きがあること。そして、やはりコンクールたるもの政治色が見え隠れすること。。。。などなど、もっと聞きたいことばかりでした!
 

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