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2023年4月23日(日)15:30開演 紀尾井ホール

4年ぶりに一般公開の卒業演奏会が復活しました!

コロナ禍の間は桐朋学園関係者のみ入場が許され、ホール内は人が少なくて寂しげでしたが、ようやく卒演ならではの賑わいが戻ってきて、1階はほぼ客席が埋まっていました。

今回はピアノ6名、ヴァイオリン4名、コントラバス1名、フルート1名、声楽2名、マリンバ1名という構成。

ピアノ6名に女性はゼロ。全員男!!えぇぇッ😤なんてことなの。

たまたま男性が優秀な学年だったと言えばそれまでにしても、6名も出演して6名全員がお・と・こ・とは。前代未聞です。これまでピアノで女性が一人もいなかった卒演は記憶になく、例年むしろ女性の方が数が多いのに。このところの日本人男性ピアニストの国際コンクール進出は目覚ましいし、女性がdやや圧倒されがちかもしれません。

そのピアノ男性陣6名は何を弾くかというと。。。

一番手の三浦颯太くんはシューマン作曲ピアノソナタ第1番 fis-moll Op.11の第1楽章。日本音楽コンクールで3位になった実力派でもあります。私のショパンのクラスも3年前のまさにコロナ真っ最中の時に履修していました。どちらかというと素直でかわいいタイプ。

二番手は安井英樹さん。ブラームス作曲創作主題による変奏曲 D-due Op.21-1。この曲に私はハマったことがあって、ドイツのベルリン音大の先生に教えを受けて、ある時期は私にとって「聖なる変奏曲」でした。まったく派手さはないけれども深みをとことん追求する曲。こういう作品を卒業試験に選ぶのは、安井さんはよほど思い入れがあったのではないかしら。

3番手は柏匡之輔さん。モーツァルト作曲グルックの歌劇『メッカの巡礼』の「我ら愚かな民の思うは」による10の変奏曲 G-dur K.455 。この曲はあるときから卒業試験で必ず誰かが弾くようになり、卒演にも頻繁に登場する曲です。河村晋吾先生が弾いて首席で卒業したのはもう15年も前の話。特別自分で弾きたいとは思わないけれど、いつ聴いても面白く聴けて名曲だなぁと思います。

4番手は佐伯涼真くん。彼も私のショパンクラスを履修していました。とても積極的な授業態度で、マズルカを自分から弾きたいと申し出て、作品17−1を弾いてくれました。今回はラフマニノフ作曲ソナタ第2番 Op.36改訂版 第2、3楽章。技術面も余裕があるし、情緒たっぷり、しかもインテリジェンスを感じさせる演奏で👏ブラボー!

5番手は菊野惇之介さん。ショパンです。ショパン作曲ソナタ第2番 b-moll Op.35 第1、4楽章。荒削りだけれども、豊かな響きで随所随所にすごい才気をを感じさせます。4楽章は、私の感覚では強弱の振幅が大き過ぎるように思いました。“墓場を吹き抜ける風“というイメージよりもっと現実的。

そして大トリは亀井聖矢くんです。バラキレフ作曲『イスラメイ(東洋風幻想曲)』。ワンランク上の難曲!あれほどの難曲で、凄まじい音の多さなのに、どこまでも音楽が明解で、一音たりとも有耶無耶な音はないし、曖昧なフレーズもなくすべて耳で捉えることが出来て、音楽に透明性を残しています。適度に間を上手く取っていることで響きが飽和状態にならず、ターキッシュな情緒も漂います。おそらくossia(部分的に平易にした異稿)は取り入れていないと思うけれどはっきりわかりません。🙇!

亀井くんはパリのロン・ティボー国際コンクールで優勝したばかりで、このところ桐朋だけでなく日本人の優秀な若手男性ピアニストが国際コンクールで上位入賞を果たしていて誇らしいですが、その中でも間違いなく逸材です。

休憩時間に上野久子先生(亀井くんの師のお一人)にお会いしました。

「もうとにかく綱渡りばかりよ。この間ラフマ(ラフマニノフの主題による狂詩曲)弾いて、もうすぐベートーヴェンの3番弾くのに、まだ1楽章しか譜読みできてないんだから。でもどうにかできちゃうからねぇ。」

「私の中学の同級生の内科医さんが追っかけてます」

「あっちでもこっちでもすごいらしいのよ」🥰😘😘

優秀な生徒をたくさん育ててきた上野先生。亀井くんにはいったいどんなレッスンをなさるのでしょうか。

もう一人の師である岡本美智子先生によれば、アメリカのクライバーン国際コンクールに出場した時、LINE動画でレッスンして、時差もあるしおちおち寝てなんかいられなかったわよ、とのこと。岡本先生ご自身だって以前の入賞者なのですからそれは熱が入ったことでしょう。

亀井くんのイスラメイを聴きながら、ふとショパンの言葉を思い出しました。

Szczytem jest prostota.(ポーランド語)訳: 究極は単純であること 行きつくところはシンプルさである 最上にあるのは単純さである

訳はいくつかあって、奥深い言葉ですからなかなかコレとは決めにくいですが、音楽の演奏において‘単純‘ ‘シンプル‘とは何か、最終的にそれを追い求めていくと、少なくとも、音が拍や音価で整理されてあるべきところにあり、万人の耳に明解であること、という意味は含まれてくるはずです。

音に時間が深く関わってくる芸術って他にあるのだろうか。。。などと考えているとまた別の美学に発展してしまいます。

亀井くんの演奏からふとこの言葉が頭に浮かんだのは、核心を突くような優れた演奏の片鱗を見たからだろうと思います。

なんか爽やかさあったけど、凄みが足りなくない?と友人は言ってましたけど、どうでしょう。キーシンとか、ヴォロドスとか、持ち音にすでに厚みがあるピアニストの演奏だと、あの音の量を一気に鳴らされると、思わず後ずさりしそうになる圧を感じて凄みと聴こえるのもイスラメイならでは。それもすごい魅力ではあります。

さてヴァイオリンの4名。こちらは女性3名。お・と・こは1名。楽器が小さいものねぇ。。。という声が聞こえてきそう。楽器どころか、この女性3名はみなさんほんと〜に小顔で、楽器がヴィオラに見えました(笑)

トリの飯塚歩夢さん(男)。これまたもう芸人というか、とにかく完全に学生の域は超越しているすごい存在。桐朋祭での超絶技巧選手権での演技つき演奏は、もう完全に桐朋学園における『伝説』です。

今回はコスチュームも半分くらい真っ赤っかなジャケットで登場で、おぉっと沸かせます。演奏したのはフーバイ作曲『カルメン幻想曲』。演奏でも沸かせる沸かせる! 亀井くんと共に、今回の卒演の華でした。

桐朋学園を卒業してこれから羽ばたいていく彼らのこれからの発展が楽しみです。

卒業演奏会に出演した人ばかりでなく、他の学生も含めて、これからクラシック音楽の世界を築いていく若い力!その成長のための一端をほんの少しでも担っている責任を思うと、真剣に指導に取り組もうと改めて心が引き締まります。

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