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ベルリン・フィルデジタルコンサートの会員になっています。カラヤンの時代からアバド、サイモン・ラトル、そして現在のキリル・ペトレンコと、その他活躍中の新旧指揮者やソリストとベルリン・フィルの演奏を聴くのはとても楽しいです!それに現在の世界の音楽界の動きがまるまる見えます。

学生の頃指揮科の伴奏を多く手掛けたおかげで、オケの曲はコンテンポラリーな作品でも興味が持つことができるし、それぞれ指揮者の棒がわかりやすいとかわかりにくいとか、私なりの見るポイントがあります。

夜パソコンに向かいながら、好きな音楽をチョイスして視聴する心和む時間を大切にしています。

少し前に見つけたアーカイブはモーツァルトのクラリネット協奏曲。大好きな曲です!

ソリストは主席クラリネット奏者のWezel Fuchsヴェンツェル・フックス。ユーモラスな体型でスマートとは言い難い外見ですが、何と申しますか、本当に人間味あふれる表情といい、どんなメロディラインも歌い込む熱意といい、その音楽への愛に心打たれている奏者です。

柔らかい織物のように滑らかなテクスチャ―。弱音へのdiminuendoもすばらしい。同じベルリン・フィルの超人気クラリネティストのオッテンザマーは惚れ惚れするほどのイケメンでスポーツ系、こちらフックスは人間味で勝負!対象的なキャラクターの世界をリードするクリネット吹きのお二人です。

フックスの演奏を聴いてみることにします。指揮はアラン・ギルバート。コンサートマスターは樫本大進。フックスにとっては慣れ親しんだホームでのソロ演奏です。

2楽章が始まります。

そしてこの曲は私の中では愛しの『Out of Africa』そのものなのです。イサク・ディネーセン原作の映画化を忘れることはできません。原作の内容は必ずしも同じではないので、映画は映画と考えるべきでしょうか。オペラだって原作に忠実とはいかないのと同じことですね。

アフリカのサバンナの美しい映像の数々。

デニスが黄色い飛行機を操縦してカレンを同乗させて、初めてアフリカのサバンナの上空を舞うのです。

何千羽というフラミンゴがいっせいに湖から飛び立つ光景。広大な峡谷に細く糸のように滝が落ちる雄大な風景。

サバンナの旅はもっとワイルドで、何日も野宿をしながら旅を続け、ある時はライオンが襲いかかってくる。バオバブの木の生える草原に突然姿を現す部族。

夕食の後、食卓でカレンが即興的に何かしらの物語を語ります。耳を傾けるデニス。これも心に残るシーンでした。

結局デニスは飛行機事故で命を落とし、経営していたコーヒー農園は火事で失い本国に戻るカレン。

私にとってモーツァルトのクリネット協奏曲の2楽章は『Out of Africa』であり、アフリカのサバンナであり、バロネス・カレン・ブリクセンとデニスの愛でもあります。

フックスのこの2楽章。最初のテーマを抒情性豊かに謳い上げます。オケの団員誰もが彼のソロをあたたかくサポートしているのが映像でも伝わってきます。フックスの背中の動きを背後から見て、それを感じて動きを合わせている。

オーケストラがテーマを引き継ぐと、フックスのテーマより、色が出てしまわないように、誰もが少し控えめに注意深く演奏しています。

中間部が終わって再現部に入る。スコアを見たことはないけれど、ここはきっとPPで戻ってくるのではないかしら。それともフックスがそう設定しているのか。えもいわれぬ静けさの中に再びテーマが浮かび上がります。提示部にはなかった装飾を加えていて、マジカルというほどではないけど飾りがあると耳目を引きます。

まだ行ったこともないサバンナの景色がまぶたの裏に浮かびます。あそこではどんな風が吹くのかしら。風の音は聞こえるのかしら。

コーダも素晴らしく、終わる直前にいったん偽終止する時、長いトリルの後で樫本大進と目をしっかり合わせて、ほんの少しのわざとらしさもなく短調に不時着して絶妙な美しさです。

軽快な3楽章も終わり大きな拍手喝采とブラヴォー!フックスはベルリンの人たちにもきっとすごく愛されているのでしょう。

何度目かのコールの後アンコールが始まります。

「○○○○○○○○プッチーニ。」○の部分はドイツ語でさっぱりわからないが、とにかくフックスがこれから吹く曲を地声でアナウンスします。「プッチーニ」と言ったので、へぇ〜、プッチーニにクラリネットの曲なんてあるのね。と意外に思っていたら・・・

メロディが始まると、樫本大進はじめオケのメンバーも思わず「これかぁ・・・」と、それぞれに隣の人と目を合わせたりうなづきあったりしています。

私だって「わぁ、これね。」と思いました。『トスカ』です!トスカからテノールのアリア『星は光りぬ』。

♪星々は光り輝いて 大地はこんなにもかぐわしい・・と歌われる超有名アリア。

トスカの哀愁の旋律にオケのメンバーも誰もが聴き惚れています。そのくらいフックスのクラリネットは歌うのです。哀愁もせつなさもノスタルジーも、音から香り立つのです。もとは彼の息なのに。あんな色合いの音に変わるのだからすごい。

後からテロップが出てきました。

こんなふうにして私の夜は更けていきます。

そのフックス。今朝Facebookを見ていたら、桐朋の後輩でパリ在住のOnoKanakoちゃんが、「弁護士の助けもなく、ついに4年間のフランス滞在ビザがおりました!」と投稿しています。

おめでとう!とメッセージ入れようと思って70人ものお祝いメッセージをたどっていったら・・・

えっ?!えっ?! フックスもメッセージ入れている!「Bravo ! Good luck」Onoちゃん、フックスと知り合いなんだわ。うらやましっ。

彼女はパリに留学後、一旦は帰国したものの、やはりどうしてもフランスで活動したくてパリに戻ったのです。ずっと伴奏の仕事で頑張って着々と確かな地位を築いていました。4年のビザだってフランスで外国人が取得するのは至難だと聞いています。がんばった努力の賜物ね。ほんと、おめでとう!

そんなおまけの話も添えることができるのも、モーツァルトのクラリネット協奏曲がすばらしいおかげです。

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